Narrative(ナラティブ)について考えました

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数年前から北米のゲーム業界でNarrative(ナラティブ)という言葉を目にすることが多くなっていました。今さらながらNarrative(ナラティブ)について考えてみると、思っていたのとは違いました。

本場のNarrative(ナラティブ)を知りたい

海外の言葉が日本に入ってくる時、日本で独自解釈される場合がありますので(ハクスラのように)、まず日本語検索で調べたりはせずに、北米で「Narrative(ナラティブ)」とされるゲームを見て、感覚的にわかろうかと思いました。

 

ゲーム賞で「Best Narrative」という賞がありますので、それならば間違いなくNarrativeの中のNarrativeであろうということでリストアップしてみました。

 

The Game Awards 2015 Best Narrative

  • HER STORY
  • LIFE IS STRANGE (ライフ イズ ストレンジ)
  • TALES FROM THE BORDERLANDS
  • THE WITCHER 3: WILD HUNT (ウィッチャー3)
  • UNTIL DAWN (アンティルドーン)

The Game Awards 2014 Best Narrative

  • South Park: The Stick of Truth
  • The Walking Dead — Season 2
  • The Wolf Among Us
  • Valiant Hearts: The Great War (バリアント ハート ザ グレイト ウォー)
  • Wolfenstein: The New Order (ウルフェンシュタイン:ザ ニューオーダー)

GDC Best Narrative 2014

  • Kentucky Route Zero: Episode 3
  • 80 Days
  • This War of Mine
  • Middle-earth: Shadow of Mordor (シャドウ・オブ・モルドール)
  • The Vanishing of Ethan Carter

GDC Best Narrative 2013

  • The Last Of Us (ラスト オブ アス)
  • Brothers: A Tale Of Two Sons (ブラザーズ 2人の息子の物語)
  • Gone Home
  • Tomb Raider (トゥームレイダー)
  • The Stanley Parable

GDC Best Narrative 2012

  • Portal 2 (ポータル2)
  • The Witcher 2 (ウィッチャー2)
  • Bastion
  • Uncharted 3: Drake’s Deception (アンチャーテッド 砂漠に眠るアトランティス)
  • Saints Row: The Third (セインツロウ ザ・サード)

ほぼ「最優秀脚本賞」

北米で「Best Narrative」とされるゲームのリストを見ていると、自分が考えていたNarrativeは全然違っていたなと思いました。

 

リストを見る前のNarrativeに対するイメージは、プレイヤー自身がストーリーを描くようなゲーム。システム的には自由度が高かったり、セリフを選択して介入できたりするような。しかし、リストを見るとストーリーが1本道のゲームも多いし、『バリアント ハート ザ グレイト ウォー』あたりは寄り道要素もほぼ無いので、誰がプレイしても同じようなゲームの進め方になる。

リストを見ると幅広いゲームジャンル・システムのゲームが選出されており、ゲームシステムによって「Best Narrative」から除外されることはなさそうで、ストーリーのあるゲームなら「Best Narrative」に選出される可能性がありそう。

 

選ばれているゲームから考えると、ほぼ「最優秀脚本賞」です。実際、GDCでは2011年までの「Best Writing Award」(最優秀脚本賞)が2012年からは「Best Narrative」に置き替わっていますから、最優秀脚本賞に近い賞なんだなとは思います。

「最優秀脚本賞」ではなく「最優秀ナラティブ」になった理由

なぜ「Best Writing Award」(最優秀脚本賞)を「Best Narrative」に置き替える必要があったのかと考える。受賞作品を見ると「ほぼ」最優秀脚本賞になっていますが、違いもあるはずです。

 

Narrativeには「話術」という意味もあり、話術→伝え方→ゲーム体験のさせ方と考えた。単に脚本が素晴らしいだけではダメで、脚本+ゲーム体験のさせ方で評価されるのが「Best Narrative」なのかと。そう考えると実にゲームらしい賞。

 

最高の脚本があったとして「Best Writing Award」(最優秀脚本賞)なら受賞間違いなしでも、ゲーム体験として、その伝え方が悪ければ「Best Narrative」は獲得できないという差。

 

ゲーム体験のさせ方は自由みたいです。『バリアント ハート ザ グレイト ウォー』のようにリニアであっても、『アンチャーテッド 砂漠に眠るアトランティス』のように映画的な演出であっても、『アンティルドーン』のような群像劇でそれぞれのキャラを操作するようなゲームであっても、要はゲーム体験として脚本が濃く伝われば良いと。私の思い違いはここにあり、ゲームシステムを見て「こういうゲームはナラティブじゃない」という考え方を持っていた。でも、実際に「Best Narrative」とされるゲームを見ると、そういう考えは違うように思います。

 

そもそも「Best Writing Award」(最優秀脚本賞)から「Best Narrative」に置き替わったのに、ゲームシステムの都合で賞から除外されるようなことがあれば、優秀な脚本が賞として評価できなくなってしまいますからね。GDCがそんなことをするのは考えいにくい。

 

しかし、ゲームシステムがまったく影響を与えないとは言えず、プレイヤーの意思を反映しやすく、自己投影できるシステムを「より伝わりやすいナラティブ(話術)」と言えるかと思います。これを感覚的に省略して「ナラティブなゲーム」と表現することもできるかと思う。ストーリーが素晴らしくてゲーム体験のさせ方も良かったゲームを「素晴らしいナラティブだったよ」と言うのは使いやすそう。ただ、そのシステム以外のゲームが「ナラティブではない」ということにはならないと。「ナラティブ」はゲームシステムやジャンルではなく、脚本 + ゲーム体験のさせ方と考えます。

話術(ゲーム体験)で評価されるゲーム

最優秀脚本賞 = 脚本

ベストナラティブ = 脚本 + ゲーム体験のさせ方

と考えると、脚本は弱めでも話術(ゲーム体験のさせ方)が濃ければベストナラティブに選出される可能性があります。リストの中では『Gone Home』ですね。私もプレイしましたが、脚本自体は、さほど凄いと思えるゲームではありませんでした。でも、その伝え方が斬新で、それが高く評価されている。

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年が違うのでリストにはありませんが『風ノ旅ビト』『INSIDE』『Virginia』のようなテキストを用いないゲームは、最優秀脚本賞と言われてもピンとこないですが、ゲーム体験のさせ方でストーリーを濃く感じることができるので、ベストナラティブに選出される可能性はあるのかなと思いました。

2016年の「Best Narrative」に注目

今回、北米で「Best Narrative」とされるゲームを見て意味を考えてみただけですので独自解釈です。自分のナラティブ感を持って、The Game Awards 2016やGDC 2016で、どんなゲームが「Best Narrative」とされるのか注目したい。

現状は、ほぼ最優秀脚本賞になっていますが、最優秀脚本賞であれば選外で、最優秀ナラティブ賞だからこそ選出されたと感じられるようなタイトルがあれば面白い。

 

PlayStationMove シューティングアタッチメント

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コメント

  1. Hamasukei より:

    >>モルガーナさん
    ニーアは個人的に2010年のベストナラティブです。
    2周目というか1.5周目というか、あの演出は驚きましたし、手法だけじゃなく中身も衝撃的でした。
    ロボット山のロボットと子マモノのエピソードが特に印象的。
    脚本の良さだけじゃなくて、ゲームならではの見せ方をしていました。まさにベストナラティブにふさわしい。

  2. モルガーナ より:

    プレイされたことがあるかはわかりませんが、
    個人的にニーアのDエンド(セーブデータ消されるアレ)が、
    ゲームにしかできない手法を上手く活用した良いナラティブだと思いました。あの時感じた葛藤や躊躇、空虚な気持ちと
    それでも自分は正しいことをした、これで良かったんだという気持ちは確かに主人公と同じ気持ちを感じられたと思いました。
    個人的に、いろんな気持ちがないまぜになって一つの単語では語れないような気持ちにさせてくれる終わり方をする脚本が好きなんですが洋ゲーでもそういう上品な作品が近年増えてきて嬉しいです。

  3. Hamasukei より:

    DQ、FFで言えば私も以前は似たような解釈でした。DQのように自分の名前がつけられて、主人公が勝手に喋ったりしないゲームのスタイルがナラティブなのかと。
    ノミネートされている作品を見ると、そういうわけではなかったと気付きました。

  4. 通りすがり より:

    以前、誰かが、FFはリニア、DQはそうではない部分があるのでナラティブって解釈を見かけたことがありますが、それはちょっと単純化しすぎだったのかな。。リニアかどうか、ではなく、受け手とのキャッチボールがうまくできてるか、みたいな感じだろうか。「脚本賞」に近い文脈にありつつプレイヤー操作の体験寄りってことかな。

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