文句無しのベストナラティブ『人喰いの大鷲トリコ』クリア後の感想

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過去記事で「ナラティブ」について考えましたが、2016年のベストナラティブは迷うことなく『人喰いの大鷲トリコ』でした。

ICOがベースみたいな

上田文人氏と言えば『ICO』『ワンダと巨像』のディレクターとして有名で、メタスコアがそれぞれ90点、91点という世界でも稀に見る超一流クリエイター。

 

3本目の作品となった『人喰いの大鷲トリコ』は、ゲームシステムとしては『ICO』に近いです。進めるルートを探して、ちょっとしたパズルを解きながら、ジャンプアクションもしつつ、時おり敵に襲われたりもする。『ICO』のゲームシステムで主人公を変えた感じでもありますが、トリコの個性がゲームに色濃く反映されているのが大きな違い。

 

人を選びやすいゲームではあるかと思う。『ワンダと巨像』はわかりやすいアクションゲームの面白さがありますが、『ICO』『人喰いの大鷲トリコ』のようなアドベンチャー&パズルで非戦闘型に近いゲームは、あまり大衆受けするジャンルではないでしょうし、セールス的にも目立ちにくいかと思います。

カメラに難あり

先に悪い点を言っておくと、カメラに難ありです。自動での動き方も手動での動かし方も、あまり良くない。

 

特にカメラの手動操作でストレスを感じました。スティックを最大近くに倒さないとカメラが動かないし、独特の慣性や鈍さを感じます。自動で位置補正されることもあって、それも気持ち悪い感覚があります。見たい方向にキチッと合わせ辛く、微調整がしにくいです。この不安定さは酔いやすいとも思う。

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自動カメラは閉所でおかしなところに潜って見難くなることが気になりました。ただ、これ自体は他のゲームでもよくあることなので、慣れたことでもあり大きなストレスでもないですが、これを手動で微調整しにくいところが残念。

 

独特の慣性や補正は、もしかしたら本当のカメラマンが撮影しているような生きたカメラワークの雰囲気が欲しかったのかもしれませんが、雰囲気的なメリットはほとんど感じずデメリットが多いです。コントローラーの動きで機械的にキッチリ動くオプション設定が欲しいです。

 

カメラと同様に主人公の少年の動きも独特な動き方や慣性があって、崖際などで思い通りに動かしにくいところがあります。ある程度ゲーム慣れしていないと難しく感じるかもしれません。

フレームレート

海外レビューではスタンダードモデルでのプレイ時にフレームレートが安定しないというコメントがありました。

 

PS4 Proでも4Kモードだと25fps前後に落ちる場面が多いようです。本体の出力を1080pにすることで30fpsに安定しているという測定結果をDigitalFoundryが動画でアップしています。これは役立つ知識。PS4 Proでフレームレートの安定にこだわりたい人は本体の出力を1080pにした方が良いでしょう。

わかりにくい謎解き

現代のゲームは親切設計が多く、クエストマーカーがあったり、露骨にあやしい場所にしていたり、答えに近いヒントをくれて助けてくれることが多々あります。『人喰いの大鷲トリコ』は少しクラシックというか、自分で歩き回って見て回って、いろいろ試して答えが見つかる。現代のゲームの感覚で言うと「わかりにくい」とも言えますが、それを手探りで打開していくところが魅力でもある。わかりにくいところを打開するから達成感があるので、これをわかりやすくしてしまうと、その達成感は薄れてしまう。上田文人氏は独自性を持っている方ですので、最近のゲームが易しい設計だからといって、それに合わせるようなことはしなかったんだと思います。

 

満点をつけているレビューですら「答えが見つかるまで長い時間がかかるかもしれない」というところを悪い点として挙げているので、受けにくい要素ではあるかもしれない。不条理には感じませんでしたので、個人的には良かった。これは好みの問題かと思います。

 

早く進めたくて、わからないことにストレスを感じてしまう人には不向きかと思う。攻略を急がず、気持ちに余裕を持ってプレイするほうが良いです。

命が吹き込まれているトリコ

このゲームで力が入っているところはトリコの動きです。画面の中で本当に生きているように感じられる存在。生きているペットと一緒に冒険している感覚にこだわっているのかと思います。

 

敵相手には頼りになるトリコですが、ちょっとドジっ子なところもあってかわいいです。

 

トリコを撫でるという操作があり、これは戦闘後に興奮したトリコを落ち着かせるための操作。撫でるポイントによって落ち着き方が違うというのも面白い。傷を癒す効果もあると思う。この撫でるという操作、基本的には戦闘後以外は必要ないはずですが、多くのプレイヤーが戦闘後以外でも撫でるようになると思います。撫でたくなるかわいさがあります。

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戦闘はICOと逆で、ICOではヨルダを守る側ですが、人喰いの大鷲トリコではトリコに守ってもらう側。この作り方も上手くて、体に槍が刺さりながらも少年を守ってくれるトリコ。少年は槍を引き抜き、撫でてトリコを癒します。

 

ゲーム途中からR1を押しながらトリコに指示できるようになりますが、機械的には動いてくれない。ここは海外レビューで賛否両論じゃなくて否が多い印象でもあり、私も理解できないわけではない。パズルゲームとして見ると不便で、システムとして不親切に思えますからね。ゲーマー目線でプレイするほど、こういう不便を楽しむのは難しいんじゃないでしょうか。レビュアーは仕事なので急いでプレイする必要もあって尚更かもしれません。

私も最初はトリコの能力や動きの癖をわかっていなくて苦戦しましたが、終盤はわりと思い通りに動かせるようになって、トリコの扱いが上手くなった実感がありました。この実感はとても嬉しいし、生物を相手に遊んでいる感じもした。終盤でも完璧に動かせたわけじゃないけど不自由は感じなかった。

ベストナラティブ

「ナラティブ」の意味に関しては過去記事に書いています。

TGA2016のベストナラティブ賞が『アンチャーテッド 海賊王と最後の秘宝』で、やはり脚本とゲーム体験のさせ方が重要。『人喰いの大鷲トリコ』は文句なくどちらも最高でした。

 

まず本当に生きているかのように感じて愛着が持てるトリコの存在が大きいです。ゲーム体験のさせ方として、かわいいペットにように思えるトリコとの旅は印象に残る。トリコが主人公の少年に向ける感情がリアルに伝わってくるから、これはもう他のゲームとは別格のもの。泣ける。

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もっと抽象的かと思っていましたが、意外にもストーリーがわかりやすかったです。オープニングは放り出される感じでしたが、少しずつ明らかになってくる。最後は大鷲だけに鳥肌が立つような描写もあり、ただただ「すごい!」という驚き。そこからエンディングも文句なしで、7年待った甲斐のある感動を与えてもらいました。

 

脚本自体の面白さと本当に生きているかのように感情を感じられるトリコの存在で、最高のナラティブに仕上がっていた。トリコの命と感情が感じられなければ、ここまでの感動はなかったと思う。やはりこのゲームの核となっているのは、命が吹き込まれたトリコという存在。自分でプレイして感情を感じてこその感動なので、見ているだけでは伝わらないとも思いますし、ストーリー展開に大きな感動があるわけではなくて、少年(自分)とトリコの絆が一番のポイントなので、そこは感受性も問われるかと思う。トリコは人間ではないのですから、わかりやすいテキストで感情を伝えてくれませんしね。

 

人を選ぶゲームですが、システムの話だけじゃなく、ゲーム内で生きているかのように動く生物をどう感じられるかというところも人を選ぶ要素。ここが弱いと、カメラに難あり、操作に癖あり、わかりにくいパズルに言う事を聞かないAIというパッとしないゲームに感じるかもしれない。逆にトリコの存在や感情を強く感じられれば、他の減点要素を吹き飛ばしてくれる。

ボリューム

クリアまで10~15時間だと思います。自力でプレイすると迷う時間が長いです。攻略を見たり聞いたりすれば10時間は切るでしょう。トロフィーに5時間以内クリアというトロフィーがありますので、スピードランならそれくらいが基準のようです。

加点法で満点

プレイ途中で1回感想を書こうかと思いましたが、書かなくて良かったです。その時点での感想は、『ICO』をベースに安定したゲームデザインで本当に生きているようなトリコも素晴らしいけど、カメラに難があったり、現代のゲームとしてはインパクト不足でもある、という感想になったかと思う。メタスコア的にも過去2作の90点、91点からの本作83点は納得いくような採点でした。

でも終盤に入ってトリコが大好きになっていて、それがあった上でストーリーと演出が突き抜けて素晴らしくて、クリア時には加点が限界突破して100点オーバーの感動がありました。感想を書きながら思い出しても泣けてくる。唯一無二のゲーム体験、こういうゲーム体験ができるゲームは希少です。

 

クセがあるゲームで万人受けしにくいと思いますし、カメラに関しては明確に悪いので広くオススメしやすいゲームではないのですが、クリアして満点の満足度を感じています。粗がありつつも、他のゲームでは味わえない突き抜けた点があるのが素晴らしい。「人喰いの大鷲トリコみたいなゲームを遊びたい」と思っても他には思い浮かばない。トリコに吹き込まれた命は特別なものです。

 

クリアして思ったのは、他の人のブロードキャスト配信も見てみたい。印象的な場面が多々ありますので、みんながどういう反応をするのか気になる。